昭和49年(1974)以降、京都国立博物館に寄託していることから、祇園祭の宵山期間(7月14日から16日)だけ、町内に戻り、芦刈山の会所飾りの目玉として衣桁にかけた姿で、宵山に訪れる見物客の目を楽しませてきました。
年に一度とはいえ、空調設備のないお飾り宅で展示しておりましたが、肩口がガーゼ状にすり減り、衣桁にかけるだけでも小袖自体の重みで生地が裂ける可能性があり、数年前からはやむを得ず、博物館から持ち帰った箱に折りたたんだ状態で展示していました。
5年ほど前、重文小袖の復元新調をしようという声が町内にあがり、京都国立博物館の山川先生のご教示をいただき、祇園祭山鉾連合会へ申請書を提出しました。ようやく2021年度になり、小袖の復元新調検討会と称して、コロナ禍のなか、主に京都国立博物館の地下収蔵室で人数制限を設けて専門委員の先生、文化庁、京都府文化財保護課、京都市文化財保護課、祇園祭山鉾連合会、そして株式会社龍村美術織物、芦刈山保存会の役員が数回集まり議論を重ねました。2022年の年明けには株式会社龍村美術織物の工場にて、小袖の復元新調の工程を確認しました。小袖の復元新調とともに水衣も新調しました。来年度に向けて、この小袖と水衣に合わせた大口袴も新調する予定です。
最終的な色選択は芦刈山保存会に一任されましたが、織り上がっていく色の組み合わせを見ると、オリジナルの色彩との違いに驚くばかりで、最初は不安を禁じ得ませんでした。これが桃山時代の色彩感覚・美意識、すなわち桃山ルネサンスの果実なのか... まさしくシスティーナ礼拝堂の煤まみれの天井画を洗浄・修復したあとに甦ったミケランジェロのオリジナルな色彩が現れたときの驚きです。重文小袖の色構成そのものも実に大胆で華やかでしたが、さらに輪をかけて優しさにあふれた鮮やかな色調が現れたのです。この小袖の復元新調事業は、現代の日本人が忘れかけていた美意識を再び呼び覚ましてくれるいい機会になりました。祇園祭にかかわるということは、こういうこと、つまり日本の心を再発見することだと実感したしだいです。